デジタル化が加速する現代において、ビジネスチャットは社内コミュニケーションの要として欠かせない存在となっています。しかし、その利便性の裏には、情報漏洩やセキュリティ侵害といったリスクが潜んでいます。
IPA(情報処理推進機構)の調査によると、2022年度の情報セキュリティインシデント発生件数は6,000件を超え、過去最多を更新しました。その中でも、標的型攻撃やランサムウェアによる被害は増加傾向にあり、企業にとって深刻な脅威となっています。こうした状況下で、ビジネスチャットの安全性を確保することは、企業の信頼を守り、事業継続性を維持するために不可欠です。
この記事では、ビジネスチャットを利用するすべての方に向けて、最新のセキュリティリスクと対策、そして安全なビジネスチャットツール選びのポイントを徹底解説します。
ビジネスチャットに潜むセキュリティリスクとその脅威とは?
ビジネスチャットは、手軽に情報共有できる便利なツールですが、その反面、セキュリティリスクも孕んでいます。主なリスクとして、以下のようなものが挙げられます。
- 情報漏洩: 不正アクセス、誤送信、内部不正などにより、顧客情報や機密情報が外部に漏洩するリスク。
- コンプライアンス違反: 個人情報保護法や不正競争防止法など、各種法令に違反するリスク。
- 風評被害: 情報漏洩やセキュリティ事故により、企業の評判が失墜し、顧客離れや取引停止に繋がるリスク。
- 業務効率の低下: セキュリティ対策が不十分なために、マルウェア感染やシステム障害が発生し、業務が滞るリスク。
これらのリスクは、企業の規模や業種を問わず、あらゆる組織に潜んでいます。ビジネスチャットを安全に利用するためには、潜在的なリスクを正しく理解し、適切な対策を講じる必要があります。
具体的なリスク事例
- 標的型攻撃メールによる情報漏洩: 従業員が巧妙に偽装されたメールに騙され、添付ファイルを開封したことでマルウェアに感染し、ビジネスチャットのアカウント情報や機密情報が盗まれる。
- フィッシング詐欺によるアカウント乗っ取り: 偽のログイン画面に誘導され、従業員がIDやパスワードを入力してしまうことで、アカウントが乗っ取られ、なりすましによる情報漏洩や詐欺被害が発生する。
- 内部不正による情報持ち出し: 退職する従業員が、顧客情報や営業秘密などの機密情報をビジネスチャット経由で外部に持ち出す。
ビジネスチャットを選ぶ上でのセキュリティチェックポイント
ビジネスチャットを選ぶ上でのセキュリティチェックポイント、より詳細な情報を提供します。各セキュリティ機能の重要性と、具体的なチェック項目について解説します。
1. 強固な認証機能
重要性
- 不正アクセスを防止するための第一歩です。
- 特にリモートワーク環境では、強固な認証機能が不可欠です。
具体的なチェック項目
- 二要素認証(2FA)または多要素認証(MFA)のサポート
IDとパスワードに加えて、スマートフォンアプリや生体認証などを組み合わせることで、セキュリティを向上させます。 - シングルサインオン(SSO)連携
既存の認証システムと連携できるか確認します。 - パスワードポリシーの設定
パスワードの複雑さ、有効期限、再利用制限などを設定できるか確認します。 - ログイン試行回数制限
不正なログイン試行を検知し、アカウントをロックする機能があるか確認します。
2. 通信の暗号化
重要性
- 通信内容を盗聴から保護し、情報漏洩を防ぎます。
- 特に機密情報を扱う場合は、暗号化が必須です。
具体的なチェック項目
- エンドツーエンド暗号化(E2EE):送信者と受信者のみが復号できる暗号化方式であるかを確認します。
- TLS/SSL暗号化:通信経路全体を暗号化しているかを確認します。
- 保存データの暗号化:サーバーに保存されたデータも暗号化されているかを確認します。
3. アクセス制限
重要性
- アクセスできるユーザーや端末を制限することで、不正アクセスや情報漏洩のリスクを低減します。
- シャドーIT対策にも有効です。
具体的なチェック項目
- IPアドレス制限:特定のIPアドレス範囲からのアクセスのみを許可できるかを確認します。
- 端末認証:登録された端末からのアクセスのみを許可できるかを確認します。
- アクセス権限の設定:ユーザーごとにアクセス権限を細かく設定できるかを確認します。
- 時間帯制限:業務時間外のアクセスを制限できるかを確認します。
4. データの保管
重要性
- データの安全性を確保し、万が一の事態に備えます。
- データセンターの物理的なセキュリティも重要です。
具体的なチェック項目
- データセンターのセキュリティレベル:データセンターの所在地、セキュリティ認証(ISO27001など)を確認します。
- データのバックアップ体制:データのバックアップ頻度、バックアップ先の安全性を確認します。
- データの冗長化:データを複数の場所に分散して保管しているかを確認します。
- データ保管期間:法律で定められたデータ保管期間に対応しているか確認します。
5. 管理機能
重要性
- セキュリティ状況を把握し、問題を早期に発見・対応します。
- 管理者の負担を軽減する機能も重要です。
具体的なチェック項目
- ログ管理機能:アクセスログ、操作ログなどを記録・管理できるかを確認します。
- 利用状況の監視機能:ユーザーの利用状況をリアルタイムで監視できるかを確認します。
- アクセス制御機能:ユーザーの追加や削除、権限変更を容易に行えるかを確認します。
- 監査ログ:管理者の操作記録も保存できるかを確認します。
6. その他
重要性
多層防御により、セキュリティリスクをさらに低減します。
具体的なチェック項目
- マルウェア対策:ウイルスやマルウェアの検知・駆除機能があるかを確認します。
- スパム対策:不要なメッセージやファイルの受信を防止できるかを確認します。
- 不正アクセス対策:不正なログイン試行を検知し、遮断できるかを確認します。
脆弱性診断
ツールの脆弱性を定期的に診断しているかを確認します。
これらのチェック項目を参考に、自社のセキュリティ要件を満たすビジネスチャットツールを選びましょう。
ビジネスチャット導入時のセキュリティ対策
ビジネスチャットを導入する際には、ツール選びだけでなく、運用面でのセキュリティ対策も重要です。以下のような対策を事前に実施することで、セキュリティリスクを大幅に低減できます。
- セキュリティポリシーの策定: ビジネスチャットの利用目的、利用範囲、禁止事項などを明確に定めたセキュリティポリシーを策定し、従業員に周知徹底する。
- 従業員教育の実施: セキュリティ意識向上のための研修や、ビジネスチャットの安全な使い方に関する指導を定期的に実施する。
- アクセス制御: 必要最低限のアクセス権限を付与し、部署や役職に応じたアクセス制限を設定する。
- 端末管理: 端末の紛失・盗難対策、OSやアプリのアップデート、セキュリティソフトの導入などを徹底する。
- データ管理: 重要データの暗号化、データのバックアップ、データの削除と廃棄に関するルールを定める。
ビジネスチャットを安全に利用するための運用ルール
ビジネスチャットを安全に利用するためには、従業員一人ひとりがセキュリティ意識を持ち、適切な運用ルールを守る必要があります。
⒈パスワード管理
定期的なパスワード変更、推測されにくい複雑なパスワードの使用、パスワードの使い回し禁止などを徹底する。
⒉情報共有
重要情報の共有は必要最小限に留め、公開範囲を適切に設定する。ファイル共有時にはパスワード設定やアクセス制限などのセキュリティ対策を講じる。
⒊コミュニケーション
言葉遣いや表現に注意し、相手への配慮を忘れない。誤送信防止のために、送信前に内容を必ず確認する。
⒋ログ管理
アクセスログや操作ログを定期的に確認し、不正アクセスの早期発見に努める。
高セキュリティで安全なおすすめのビジネスチャット5選
数あるビジネスチャットツールの中から、セキュリティ対策に特に力を入れているおすすめのツールを5つご紹介します。
⒈Tocaro



- 高度なセキュリティ機能と使いやすさを両立させた国産ビジネスチャットツールです。
- エンドツーエンド暗号化、多要素認証、IPアドレス制限など、強固なセキュリティ対策を備えています。
- 管理者向けの機能も充実しており、ログ管理やアクセス制御などを容易に行えます。
- 日本の企業文化に適した、きめ細やかなサポートも魅力です。
- Tocaroは国産のツールであることから、日本の法制度や商習慣への対応も期待できます。
- 1ユーザー200円から導入できるのリーズナブルな料金設定。
- URL:https://tocaro.com/
⒉Microsoft Teams



- Microsoft 365との連携によるシームレスな利用環境が特徴です。
- 多要素認証、データ暗号化など、充実したセキュリティ機能を備えています。
- Word、Excel、PowerPointなどのOfficeアプリとの連携により、ファイル共有や共同作業がスムーズに行えます。
- ビデオ会議やWeb会議機能も充実しており、リモートワークにも最適です。
- URL:https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/
⒊Slack



- 柔軟なアクセス制御、データ損失防止 (DLP) 機能、豊富なセキュリティアプリとの連携により、高度なセキュリティを実現できます。
- チャンネルと呼ばれるグループ機能により、テーマごとにコミュニケーションを整理できます。
- 外部アプリとの連携が豊富で、様々な業務ツールと連携させることで、業務効率を向上させることができます。
- URL:https://slack.com/intl/ja-jp/
⒋Chatwork



- IPアドレス制限、端末認証、ログ管理など、基本的なセキュリティ機能を備えています。
- 国内データセンターでのデータ保管も安心材料です。
- シンプルなインターフェースで、誰でも簡単に使いこなせます。
- タスク管理機能やファイル共有機能も充実しており、中小企業を中心に広く利用されています。
- URL:https://go.chatwork.com/ja/
⒌LINE WORKS



- LINEと繋がる唯一のビジネスチャットツールです。
- LINEとつながることにより社外との連携が、非常にスムーズです。
- ビジネスで利用する上で必要な、アドレス帳、カレンダー、アンケート等グループウェアとしての機能も充実しています。
- 管理者権限によるセキュリティ設定、ログ管理、利用状況の監視など管理機能も充実しています。
- URL:https://line-works.com/
これらのツールは、いずれも高いセキュリティレベルを誇り、安心してビジネスチャットを利用できます。自社のニーズや規模に合わせて、最適なツールを選びましょう。
ビジネスチャットのセキュリティに関するFAQ
ビジネスチャットのセキュリティに関して、よくある質問をまとめました。
Q. 無料のビジネスチャットツールは安全ですか?
A. 無料のビジネスチャットツールは、手軽に始められるというメリットがある一方、セキュリティ対策が有料ツールと比べて十分でない場合があります。
具体的には、以下のようなリスクが考えられます。
- 暗号化が不十分: 通信内容や保存データが暗号化されていない場合、第三者に盗み見られる可能性があります。
- 脆弱性対策が不十分: セキュリティの穴(脆弱性)が見つかった場合、すぐに修正されない可能性があります。
- サポート体制が不十分: 問題が発生した場合、サポートを受けられない、または対応が遅れる可能性があります。
- 広告表示: 無料ツールの中には、広告収入で運営されているものがあり、広告を通じてマルウェアに感染するリスクがあります。
- データ収集: 利用状況などのデータが収集され、プライバシーの侵害に繋がる可能性があります。
無料ツールを利用する場合は、これらのリスクを理解した上で、セキュリティレベルをよく確認することが重要です。信頼できるセキュリティ対策が施された有料ツールを検討することもおすすめです。
Q. ビジネスチャットで個人情報を取り扱っても良いですか?
A. ビジネスチャットで個人情報を取り扱う場合は、個人情報保護法などの法令を遵守し、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。
具体的には、以下のような対策が必要です。
- アクセス制限: 許可された従業員だけが個人情報にアクセスできるように、アクセス権限を設定する。
- 暗号化: 個人情報は、保管時および通信時に暗号化する。
- ログ管理: 個人情報へのアクセス記録を保存し、定期的に確認する。
- 従業員教育: 個人情報の取り扱いに関するルールを従業員に周知徹底する。
- セキュリティポリシー: 個人情報の取り扱いに関するセキュリティポリシーを策定する。
これらの対策を怠ると、情報漏洩や罰則などのリスクがあります。個人情報を取り扱う場合は、セキュリティ対策を徹底しましょう。
Q. BYODでビジネスチャットを利用する場合の注意点は?
A. BYOD (Bring Your Own Device) とは、従業員が私物のスマートフォンやパソコンなどの端末を業務に利用することです。BYODでビジネスチャットを利用する場合、以下の点に注意が必要です。
- 紛失・盗難対策: 私物端末は、紛失や盗難のリスクが高いため、パスワード設定や遠隔ロックなどの対策を徹底する。
- アクセス制限: 業務で利用するアプリやデータへのアクセスを制限する。
- セキュリティソフト導入: ウイルス対策ソフトやファイアウォールなどを導入し、最新の状態に保つ。
- OS・アプリのアップデート: セキュリティパッチなどを適用し、脆弱性を解消する。
- データの分離: 私用データと業務データを分離し、業務データの保護を強化する。
- 利用規約: BYOD利用に関する規約を定め、従業員に周知徹底する。
BYODは、利便性が高い一方、セキュリティリスクも高まります。適切な対策を講じることで、リスクを軽減し、安全にBYODを活用しましょう。
ビジネスチャットの安全性を高め、企業の未来を守るために
ビジネスチャットは、今や企業にとって欠かせないコミュニケーションツールとなりました。しかし、その利便性と引き換えに、情報漏洩やセキュリティ事故といったリスクも増大しています。これらのリスクは、企業の信頼を失墜させ、事業継続を脅かすだけでなく、多大な経済的損失をもたらす可能性も秘めています。
だからこそ、ビジネスチャットの安全性確保は、もはや「守り」の姿勢だけでは不十分です。「攻め」の姿勢で、積極的にセキュリティ対策に取り組むことが重要となります。
この記事では、ビジネスチャットに潜むセキュリティリスク、安全なツール選びのポイント、導入時のセキュリティ対策、そして日々の運用におけるルールなど、多岐にわたる情報を提供してきました。これらの情報を参考に、自社のビジネスチャット環境を見直し、最適なセキュリティ対策を講じてください。
重要なのは、従業員一人ひとりがセキュリティ意識を高め、安全な利用を心がけることです。企業全体のセキュリティレベル向上に繋がり、より安全で信頼性の高いビジネス環境を構築することができます。
さあ、今すぐ行動を起こし、ビジネスチャットの安全性を高め、企業の未来を守りましょう。