今、注目されている健康経営とは?

コロナ禍以降、多様化する働き方など人や企業の価値観が大きく変わってきています。その中で昨今よく使われるようになった言葉「健康経営」をご存じですか?

企業が順調な経営を続けるには、社員に高いパフォーマンスを発揮してもらうことが欠かせません。そこで、従業員の健康を経営資源ととらえ、企業が積極的に従業員の心身の健康を守るために取り組みを実施する「健康経営」が注目されるようになりました。

企業にとって、労働力の確保や生産性向上が経営課題となっている中でも「健康経営」が重要となってきています。がむしゃらに企業のために働くことが美徳とされてきた古き良き日本の考えは変わりつつあるのです。

国が積極的に健康経営を推進していることもあり、健康経営の導入を模索している人事企業の企業の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、健康経営の基礎や政府の取り組み、メリット・デメリット、導入方法などを徹底解説します。

健康経営とは?

令和4年6月の経済産業省 ヘルスケア産業課による資料によると、「健康経営」は下記のように定義されています。

「健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。」

健康経営とは、企業や組織が従業員の健康を維持し、向上させるために、組織全体で取り組む経営戦略のことを指します。従業員の身体的・精神的な健康を重視し、予防的な健康管理や健康促進の取り組みを行い、労働環境を改善することを目的としています。

会社の経営と従業員の健康管理を統合し、従業員の健康が会社の業績向上につながるという考え方を、1994年アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士が著書「ヘルシー・カンパニー―人的資源の活用とストレス管理」で提唱しました。

これまで、多くの企業経営は業績優先であり、従業員の健康が会社経営に欠かせない要素という認識は少数派でした。しかし、健康経営の推進により「従業員が肉体的にも精神的にも健康でなければ、会社の発展も不健康になる」という考えが浸透しつつあるのです。

健康経営が注目されるようになった背景とは?

最近よく耳にするようになった「健康経営」が注目される背景には、以下のような理由があります。

⒈労働環境の改善の必要性

労働環境の悪化によるストレスや過労が社員の健康を損ない、生産性の低下や離職率の上昇といった経済的な損失を企業にもたらすことから、労働環境の改善が求められています。近年、仕事によるストレスからうつ病になってしまい、最悪の場合では自殺に至るケースも社会問題化しています。健康経営は、労働環境の改善を通じて、社員の健康を維持し、働きやすい環境を整備することを目的としているのです。

⒉労働人口の多様化

労働人口の多様化が進む現代社会において、異なる世代や性別、文化背景を持つ社員が共に働くことが一般的になっています。異なる背景を持つ社員に対して、健康経営を通じて多様性や包摂を尊重し、全ての社員が健康で気持ち良く働き続けられるような環境を整備することが求められています。

⒊労働人口の減少

少子高齢化による労働人口の減少が社会問題化しています。労働力確保のために社員の雇用延長などを積極的に実施したい状況にありながら、長時間勤務によって健康状態が悪化すると企業の生産性を低下させることになり、離職や優秀な人材の確保にも悪い影響を及ぼす可能性があります。

また、医療費は増大の一途をたどり、国の予算や会社の経費を圧迫しています。増加し続ける国民医療費は、健康保険組合等の財政悪化を招き、結果として健康保険料の上昇という形で企業負担の増加につながっているのです。

2030年には、高齢化率 31.6%となると予想されていています。健康への投資を促進し、就労世代の活力向上や健康寿命の延伸等を実現することが重要となってきています。

⒋健康意識の高まり

健康意識の高まりにより、社員自身が自分の健康に対して関心を持ち、健康を維持・向上するための取り組みを求めるようになっています。コロナ禍以降、より自分自身の健康意識が高まってきています。企業は、人間ドックなどで社員の健康をサポートし、健康的なライフスタイルを促進するための健康経営を展開することで、社員のモチベーション向上や働きやすさの向上を図ることが大事です。

健康経営の5つのメリットとは?

健康経営に取り組む企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?5つのメリットをご説明します。

⒈労働生産性の向上

社員の健康が改善されることで、労働生産性が向上するとされています。健康な社員は、仕事に集中することができ、業務を効率的にこなすことができます。体力や精神に余裕のある社員が増えれば、お互いに仕事をフォローしたりわからないところを聞きやすかったりする風土が生まれ、ミスも防ぎやすくなり、相乗効果が生まれます。その結果、生産性の向上による業績アップが見込めると言われています。

⒉企業の魅力向上

健康経営は組織の魅力を高めます。近年は、社員を大切にしない成果主義のブラック企業に社会から厳しい目が向けられるようになっています。社員の健康を守り、働きやすい環境が整備されている組織は、優秀な人材の採用や定着を促し、競争力を高めることができます。

経済産業省は、健康経営に係る各種顕彰制度を通じて、優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」し、社会的な評価を受けることができる環境を整備しています。2022年には、株式会社タニタヘルスリンクやトヨタ自動車健康保険組合などが「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」に選定されています。

⒊離職率の低減

健康経営により社員の健康が改善されると、離職率の低減に繋がります。社員が健康を損なうと欠勤や休職、退職などを招いてしまい、更に健康だった社員への負担が増えて悪循環になってしまうのです。健康な社員は、体調不良による休職や退職のリスクが低くなり、組織の人材定着にもつながるのです。

⒋働き方改革の推進

健康経営は、働き方改革を推進する一助となります。柔軟な労働時間やリモートワークなど、社員の健康とワークライフバランスを考慮した働き方を実現することで、社員の満足度やモチベーションが向上します。
コロナ禍以降、「ワークライフバランス」がより注目されています。がむしゃらに企業のために働く時代から、自分の心と体の健康を大事にした働き方を支持する人が増えています。

⒌企業が負担する医療費の削減

社員の医療費は一部を企業が負担しており、健康を損なって医療機関を受診する社員が増えれば、必然的に企業の支出も増えてしまうのです。健康経営により社員が医療機関を受診する回数などが減れば、企業が負担する医療コストの削減が可能になります。

健康経営のデメリットとは?

健康経営のメリットを上記でご説明しましたが、もちろんデメリットもあります。健康経営を始める前にしっかりとデメリットを理解して、対策を考えておきましょう。

費用の増加

健康経営を推進するためには、健康プログラムの導入や運営にかかる多額の費用が必要となります。また、社員の健康を支援するための福利厚生の拡充や健康診断の実施なども費用がかかります。これにより、企業の予算や経営リソースに負担がかかることにもなりますが、長い目で見て自社に見合う規模での実施をしましょう。

効果の測定の難しさ

健康経営の効果を客観的に測定することはとても難しいです。社員の健康改善による生産性向上や健康保険費用の削減などの効果を定量的に評価するためには、長期的なデータの収集や分析が必要であり、それには時間やリソースが必要となります。経営陣でしっかりと健康経営の方向性を決めて実行しましょう。

個人情報の取り扱い

健康経営の一環として、社員の健康情報を収集・管理する必要があります。しかし、個人情報の保護やプライバシーの問題が発生する可能性があります。個人情報の取り扱いは外部の専門企業に委託するなど、適切な情報管理体制を整える必要があります。

健康経営の導入方法とは?

健康経営のスムーズな導入が可能になる方法をご説明します。

健康経営プロジェクトチームを作りましょう

企業が健康経営に取り組むためには、経営者や産業医や健康保険組合、労働組合、社員など、多くのメンバーが関わることになります。そのため、まずは組織横断プロジェクトチームを設置したりなどチームを作って取り組む必要があります。また、外部研修や外部の成功事例などで資料を集め、健康経営についての知識を深めることが重要です。

課題を確認しましょう

健康経営を進める上で、まずは社員の健康上の課題を把握することが必要です。課題の把握のためには、企業が保有しているデータを活用するようにしましょう。

例えば、定期的な健康診断や人間ドック、ストレスチェックの受診率や結果はもちろん、有給休暇の消化率や残業時間の累計・月平均・週平均についても洗い出してデータ化しましょう。このようなデータは、健康経営の課題を把握する上での基礎データとなります。それにより、医療費を下げる、メンタル不調者を減らす、生活習慣病の罹患を予防するなど、具体的な目標に向けた施策を検討することができます。

とてもナーバスな個人情報を取り扱うことになるので、注意が必要です。

計画の実行しましょう

健康経営の課題が把握できたら、課題克服の計画を立てて実行に移しましょう。実行スケジュールは、明確にすることが大切です。また、社員が楽しみながら気軽に取り入れられる施策にすると参加率も高まります。参加を強制すると、更にストレスがかかってしまい本末転倒になってしまうので注意しましょう。

多くの企業が取り組んでいる施策は、「始業前のラジオ体操」「アプリでの歩数計測で部署対決」「昼食後のウォーキング推奨」「健康をサポートするオフィス家具の導入」などです。コストがかからず気軽に始められるものからスタートさせましょう。

社内外へ告知しましょう

健康経営を計画し実施する際には、まず社長が内外に健康経営の重要性や自社の取組方針を宣言しましょう。その後、社内広報などで全社員に周知し、プレスリリースで社外に告知するようにします。

ここで一番重要なことは、健康経営に本気で取り組むという会社トップの姿勢と言動になります。そのメッセージがプロジェクトチームを筆頭に社員に伝われば、健康経営は成功することができるはずです。同時に、取引先や顧客へも健康経営に対する姿勢が伝わりやすくなります。

健康経営でみんながハッピーな企業を目指しましょう

コロナ禍以降、働き方の多様化と共に「自身の健康」について考える人が急増しました。そのような背景もあり、より健康経営は注目されているのです。健康経営は、将来的な収益性の向上に繋がる計画的な投資です。政府が取り組む健康経営制度に認定されることで、さらに効果を高めることもできます。

この記事では、健康経営の基礎知識や健康経営に取り組むメリットデメリットなどについて紹介しました。

社員が定着・活躍できる組織を作るために、自社の社員の特徴や強みをしっかりと把握し、それぞれがやりがいを持って仕事を行えるよう、人員配置や教育、社内制度を通じた健康支援を行うことが大切なのです。

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