企業の成長に欠かせない人的資本とは?

現代のビジネス環境は、テクノロジーの進化やグローバル化といった要素により、絶えず変化し続けています。この競争の激しい環境で企業が成功を収めるためには、資金や設備といった物的資本だけでなく、「人的資本」に注目を向けることが重要となってきています。

ビジネス環境は絶えず変化し、その中で企業が成長を続けるためには、人的資本への投資が必要不可欠となっているのです。

また、岸田首相は2022年1月の施政方針演説で「人的投資が、企業の持続的な価値創造の基盤であるという点について、株主と共通の理解を作っていくため、今年中に非財務情報の開示ルールを策定します」と表明したことも記憶に新しいかと思います。金融庁など政府内で検討が進んでいます。

この記事では、人的資本とは何か、なぜ人的資本経営が求められるのか、そして具体的にどのように取り組むべきなのかについて、初心者でも理解できるように詳しく説明していきます。未来を見据えて共に取り組むべき人的資本経営の理解とその実践への一歩を、この記事を通して踏み出しましょう。

人的資本とは?

人的資本とは、一言で言えば「人々が持つ知識、スキル、経験、能力など、その人間性から生じる経済的価値」を指します。企業にとって、機械や建物などの物的資本は重要な資源ですが、それらを適切に活用し創造的なアイデアを生み出すためには、人間の知識やスキルが必要となります。そのため、人的資本は企業の価値を高め、競争力を維持するための重要な要素とされています。

人的資本の概念は広範で、以下のような要素を含みます。

教育と訓練
社員が持つ知識や技術は、教育や職業訓練を通じて獲得されます。これにより、社員は特定のタスクを効率的にこなす能力を持つことができます。

経験
長年の職務経験を通じて、社員は対人スキルや業務遂行能力、問題解決能力を向上させることができます。これらは形式的な教育では得られない貴重なスキルです。

社内ネットワークと関係
組織内で築く人間関係やネットワークも人的資本の一部です。これらは情報の共有や協働を促進し、組織の生産性を高める助けとなります。

人的資本は、これらの要素を通じて、企業が新しい製品を開発したり、顧客サービスを改善したり、業務プロセスを効率化したりする能力を高めます。だからこそ、人的資本への投資は、企業の成長と持続的な成功にとって、極めて重要な要素となるのです。また、企業の競争力を向上させ、経済的な価値を生み出すことができます。

人的資本経営とは?

人的資本経営とは、経済的価値を生み出すための企業の重要な資源である「人的資本」を効果的に管理し、開発し、活用することを主眼に置いた経営手法を指します。

この経営手法は、物的資本(設備や機械など)や金融資本(金融資産)だけでなく、人材を価値創造の源泉と見なすという視点から、企業の競争力強化や持続可能な成長を目指すものです。

また、人的資本経営は、社員の満足度やエンゲージメントの向上にも寄与するため、組織の全体的なパフォーマンスを高めることにつながります。

人的資本経営が求められる背景とは?

近年、テクノロジーの進化やグローバル化の進行、社会の多様化により、企業の競争環境は大きく変化しています。その中で、企業の持続的な成長を支えるためには、技術や設備だけでなく、人材を中心とした経営が求められています。これが人的資本経営が求められる背景です。

多様な視点やスキルを持つ人材を活用し、新たな価値を創出することは、企業の競争力を保つ上で欠かせません。これは、人的資本が持つ多様性や創造性が、新たなビジネスチャンスを見つけ出したり、課題解決につながったりするからです。

人材版伊藤レポートによる人的資本経営のポイント

「人材版伊藤レポート」とは、正式には「企業の成長戦略と人材戦略の一体化を通じた人材活用改革の推進に関する検討会」の報告書のことを指します。2020年に経済産業省から発表されたこの報告書は、企業の人材戦略と成長戦略の一体化を推進し、企業価値を向上させるための具体的な指針を示しています。

人材版伊藤レポートでは、以下のようなポイントが挙げられています。

人材活用改革の重要性
企業は競争力を維持し、成長を続けるためには、人材を最大限に活用することが必要であると強調しています。

企業の成長戦略と人材戦略の一体化
企業の成長戦略と人材戦略は切り離すことができないと指摘し、それらを一体化することで企業価値を向上させることが可能であるとしています。

人材戦略の開示
企業は自らの人材戦略を開示し、投資家や顧客に対して透明性を保つことが求められています。

経営陣の役割
経営陣は企業の人材戦略を策定し、その実行を監督する役割を果たすべきであると指摘しています。

これらのポイントは、人的資本経営の観点から見ると、人材の育成や活用、評価システムの改革など、企業全体の人材戦略の見直しを通じた組織の成長と価値創造につながる重要な示唆を与えています。

人的資本経営に取り組むためのプロセスとは?

人的資本経営を実現するためには、以下のようなプロセスが求められます。ぜひ参考にしてみてください。

⒈ビジョンの設定

まず、企業が目指すべき方向性や目標を明確にします。これにより、従業員が共通の目標に向かって努力することが可能となります。

⒉人材育成の戦略

次に、そのビジョンを達成するために必要な人材を育成するための戦略を立てます。これには、社員の教育やトレーニング、キャリア開発などが含まれます。

⒊人的資本の活用

そして、育成された人材を適切に活用することで、企業価値を最大化します。これには、人材の配置や評価、報酬体系などが考慮されます。

4.開示

最後に、これらの取り組みとその成果を外部に開示します。これにより、企業の透明性が向上し、投資家や取引先からの信頼を得ることができます。

これらのステップを通じて、企業は人材を活用して価値を創造し、企業の競争力を向上させ、持続可能な成長を達成することが可能になります。

人的資本経営の事例2選

人的資本経営の具体的な事例をご紹介します。

「ありたい姿」を実現するための新制度(花王株式会社)

出典:花王株式会社

花王株式会社では、「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」としてOKR(Objectives & Key Results)を導入しています。従来のKPIを主体とした目標を見直し、挑戦と連携を重視した人材育成の取り組みを推進しています。社員同士で目標を共有してブラッシュアップさせていき、自分の目標が組織目標にどうつながっていくのかを認識しながら、成長を続ける制度を取り入れています。

また、経営トップを委員長とする「人財企画委員会」を毎月開催しています。経営戦略と人材開発が親密に関係し、これからの人材育成の課題に対する解決策を議論する場を設けています。人財開発活動は国内に限ったものではなく、グローバルで共通の仕組みの導入を推進しています。

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人と企業価値の好循環の好循環を生み出す人材戦略(伊藤忠商事株式会社)

出典:伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社では、持続的な成長に必要な人材戦略を設定し、重要な経営戦略として位置付けています。本質を追求した人事戦略では、労働生産性の向上を重視し、学生をはじめとした労働市場に積極的に発信を続けています。

伊藤忠商事株式会社の経営理念「三方よし」のもと、多面的な戦略目標を立てています。「優秀な人材の確保」や「効率性の追求」など、それぞれの目標に対して施策と成果を開示し、ステークホルダーの理解を促しています。さらに、労働生産性を社外に発信しており、人的資本経営の取り組みが社会から評価されるように取り組んでいます。

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これらの企業は、それぞれ異なる方法で人的資本経営を実践していますが、共通しているのは人材を企業価値の源泉と捉え、その能力や幸福度を最大化するための取り組みを行っている点です。これらの取り組みは、企業の競争力や持続的な成長を支える重要な要素となっています。

人的資本経営の開示とは?

人的資本経営とは、企業が従業員のスキルや経験などの人的資本を活用し、企業価値を向上させるための経営手法のことを指します。また、人的資本経営の開示とは、企業が自身の人的資本経営の取り組みを外部に明らかにすることを指します。

人的資本経営の開示は、企業の価値評価や投資判断において重要な役割を果たします。企業がどのように人材を育成し、活用しているのか、また、その結果としてどのような成果が得られているのかを明らかにすることで、投資家は企業の持続的な成長力を評価することができます。

日本では2020年9月に経済産業省が「人材版伊藤レポート2.0」を公表し、それを皮切りに人的資本情報開示の重要性が日本国内でも広まりました。
2021年6月には、上場企業が遂行すべき企業統治のガイドライン「コーポレート・ガバナンスコード」を改訂。改訂版コーポレート・ガバナンスコードでは、新たに「人的資本に関する開示・提示」と「取締役会による実効的な監督」が追加されています。

金融庁が2023年度にも、有価証券報告書に記載することを義務付ける項目もあるため、企業は引き続き対応が必要となります。

人的資本開示19項目とは?

人的資本開示19項目とは、日本の経済産業省が推進する「人的資本情報開示フレームワーク検討会」によって提唱されている開示項目のリストです。このリストは企業が人的資本に関する情報を公開する際の指針として提供されており、具体的には以下の19の項目から成り立っています。

これらの項目は、企業が人的資本をどのように評価し、投資し、管理しているかを示す情報となります。投資家やその他のステークホルダーは、これらの情報を通じて企業のパフォーマンスや競争力、持続可能性を評価することができます。

ただし、これらの項目すべてを必ずしも開示する必要はなく、企業の状況や戦略に応じて適切な項目を選択し、開示することが推奨されています。また、開示する情報の品質や評価方法にも注意を払うことが求められています。

人的資本の情報開示の手順

人的資本の情報開示を行う手順や流れは、企業の状況や戦略によりますが、一般的なステップは以下の通りです。

1. 戦略の理解と目標の設定

まず、経営陣と人事部門は、企業のビジョン、ミッション、戦略を共有し、それに基づいて人的資本開示の目標を設定します。開示の目的は何か(例えば、投資家の理解を深める、従業員のエンゲージメントを高めるなど)どの項目を開示するべきかを決定します。

2. データの収集と分析

次に、開示するための情報とデータを収集します。これには、従業員の満足度調査、パフォーマンス評価の結果、教育・研修の実施状況、離職率などが含まれます。これらのデータは分析され、人的資本のパフォーマンスと経営成果との関連性が評価されます。

3. 情報の整理と評価

収集したデータは、経営陣や関係者と共有され、その意味と重要性が評価されます。また、このステップでは、情報の信頼性や一貫性、比較可能性を確保するための方法も検討されます。

4. 情報の開示

次に、情報を適切な形式で開示します。これには、企業のウェブサイトやCSRレポート、統合報告書などが使われます。また、開示される情報は明瞭で、投資家やその他のステークホルダーが理解しやすいようにする必要があります。

5. フィードバックの収集と改善

最後に、開示した情報の反響や効果を評価し、必要な改善点を見つけ出します。これには、投資家や従業員、その他のステークホルダーからのフィードバックの収集と分析が含まれます。

これらのステップを通じて、企業は人的資本の情報開示を効果的に行うことができます。このプロセスは一度限りのものではなく、継続的な改善とアップデートが必要です。

人的資本経営で目指すべき姿とは?

人的資本経営の目指すべき姿は、全ての社員がその能力を最大限に発揮し、持続的な成長と企業価値の向上を実現する組織です。

具体的には、人材の個々の能力や経験を尊重し、その発揮の場を提供するとともに、適切な評価と報酬を行い、社員のモチベーションを高めます。また、多様な人材が活躍できる環境を整備し、新たな価値を創出します。

人的資本経営への取り組みは未来への投資

この記事では、人的資本とは何か、なぜ人的資本経営が求められるのか、どのように取り組むべきなのかについてご説明しました。企業の競争力を維持・向上させるためには、人材を最大限に活用することが不可欠です。そして、人的資本の価値向上を目指し、人的資本の情報開示を健全に行うことの重要性は、今後ますます注目されるようになるでしょう。また、社員の満足度やエンゲージメントを高める施策は企業にとって必須だといえます。

人的資本経営への取り組みは、企業の未来への投資とも言えます。その結果、企業の持続的な成長と価値向上を実現し、社会に対する貢献を果たすことが可能となります。今後も、人的資本経営への理解を深め、その実践を進めていきましょう。

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