事例で学ぶシャドーITが引き起こすトラブルとは?

リモートワークの浸透に伴い、働き方は大きく進化していますが、その一方で「シャドーIT」が持つ潜在的な脅威も増しています。迅速に業務を進めるためや、便利さを求めて非公式のITツールやアプリケーションを導入・利用するケースが増加してきました。社員が業務を効率化するために非公式のITツールを利用することは一見利益に見えるかもしれませんが、この“影”のIT活動が実は企業に巨大なリスクをもたらしているのです。

だが具体的に、どのようなリスクが存在するのでしょうか?また、実際の現場ではどのような事態が生じているのでしょうか?リスクを最小化し、企業の安全を守るためには、シャドーITをどうやって根絶し、適切な管理を行うかが問われています。

この記事では、実際の企業で発生したシャドーITによるトラブル事例をもとに、その深刻な影響を具体的に解説し、撲滅への道筋を探ります。

シャドーITとは?

今日のビジネスの現場は、先進技術が日常となっています。一方で、企業公式のITシステムやツールを避け、便利さを求めて非公式の手段を求める動きが目立ち始めています。しかし、その背後にはどのような背景や誘惑があるのでしょうか?

「シャドーIT」とは、組織のIT部門の監督や認知を経ずに、従業員や部門が独自に導入・利用するITツールやアプリケーションのことを指します。例としては、公式のファイル共有システムの代わりに無料のクラウドストレージを利用する、公式でないメッセージアプリで業務のコミュニケーションを取るなどが挙げられます。

シャドーITの隠れたリスクとは?

シャドーITはその手軽さから魅力的に感じられるかもしれませんが、実際には数多くの潜在的なリスクが隠れています。組織や個人が無意識にそのリスクを取り込んでしまうことがあるため、正しく理解し対策を施すことが必要です。

セキュリティ違反とデータ漏洩の危険

非公式のITツールやアプリケーションは、多くの場合、組織のセキュリティポリシーや基準を満たしていない可能性があります。これにより、外部からの攻撃や不正アクセスを受けやすくなる可能性があります。例えば、非公式のクラウドストレージに機密情報を保存していると、その情報が第三者に漏洩するリスクが増大します。

データの不整合による業務混乱

シャドーITを使用すると、公式のシステムやツールとの間でデータの不整合が生じることがあります。これにより、業務プロセスに混乱が生じ、業務の効率や品質に大きな影響を及ぼす可能性があります。たとえば、部門Aが非公式のツールで業務を進め、その結果を部門Bが公式のシステムで確認できない場合、組織全体の業務が停滞する可能性があります。

コンプライアンスの観点でのリスク

多くの企業では、業界の基準や法律、規制に従って業務を遂行する必要があります。シャドーITの使用により、これらの基準や規制を意図せずに違反してしまうリスクが高まります。例えば、特定の業界規制で定められているデータの保管や取り扱いの方法に違反することになり、その結果、罰金や業務停止命令などの厳しい制裁を受ける可能性があります。

なぜシャドーITをしてしまうのか?

シャドーITをしてしまう背後には、多様な理由や動機が存在します。以下に主な理由を挙げ、詳細に解説します。なぜリスクを冒してまでシャドーITをしてしまうのかを理解することで、企業全体で防ぎましょう。

即時のニーズに対する対応:公式のIT部門を経由するとツールやアプリケーションの導入が時間がかかることが多い。社員は自らの業務効率を上げるために、即座に利用できるツールを求めてしまいます。

利便性と使いやすさ: 多くの非公式のツールやアプリケーションは、ユーザーフレンドリーで直感的なインターフェースを持っています。これに対して、公式のシステムは煩雑で使いづらい場合があります。

コスト節約: 有料の公式ツールやソフトウェアライセンスに対して、無料のオンラインツールやアプリが存在する。特に、予算が限られている部門やスモールチームは、コストを節約するために無料ツールを選ぶことがある。

柔軟性: シャドーITは、特定のニーズや要求に合わせてカスタマイズや調整が容易であることが多い。公式のシステムではこのような柔軟性が欠けている場合が多い。

知識不足: 社員がシャドーITのリスクを十分に理解していない場合、その危険性を軽視して利用してしまうことがあります。

変化への対応: ビジネス環境や業務の要求は絶えず変化します。公式のIT部門がこれらの変化に迅速に対応できない場合、社員は自らの手で解決策を探求することがある。

コラボレーションの要求: チーム内や外部のパートナーとのコラボレーションを円滑に行うためのツールやプラットフォームが公式の方針にはない場合、社員は自ら適切と思われるツールを探し出して利用します。

これらの理由は、シャドーITの問題を単なる「ルール違反」として捉えるのではなく、組織全体のITストラテジーやポリシー、そして社員のニーズとのギャップが原因として存在していることを示しています。企業内で周知する必要があります。

事例で学ぶシャドーITの影

一般的なリスクを理解することも大切ですが、実際の企業での事例を通じて、シャドーITがもたらす具体的な影響を深く理解することが、真の対策への第一歩です。以下に、実際の業界を背景にした事例をもとに、シャドーITの危険性を詳細に探ります。なお、具体的な企業名や事件については、プライバシーや著作権、リスクなどの問題から、実名ではなく、実事件を元にした架空の事例として記載いたします。

1. 大手製薬会社の研究データ流出

事の発端
国際的な協力プロジェクトを進めていたある製薬会社の研究チームは、データのやりとりを容易にするため、公式ルートを避けて、非公式のファイル共有ツールを利用し始めました。このツールは一般的に公開されており、多くの人々に利用されていました。

結果
非公式のファイル共有ツールには、セキュリティの脆弱性がありました。これに気づいたサイバー犯罪者が、この脆弱性を利用して研究データへの不正アクセスを行いました。その結果、重要な新薬の研究データが競合他社に流出し、製薬会社は数年間の研究の遅れと、多額の損失を被りました。

2. 自動車製造業のサプライチェーン(物資の流れ)混乱

事の発端
ある自動車製造会社の部門は、生産効率を上げるため、部門独自で未承認のERPシステムを導入しました。これにより、部品の在庫管理や注文を迅速に行うことができると考えました。

結果
しかし、公式のERPシステムとデータの整合性がとれず、部品の在庫情報に誤差が生じました。特に、在庫がないと判断された部品を再注文するという混乱が続出してしまいます。結果的に、生産ラインが停止し、大幅な生産遅れとコストの増大を引き起こしました。

3. 銀行のコンプライアンス違反

事の発端
ある地方銀行の支店は、顧客の応対効率を上げるため、非公式の顧客管理ツールを導入しました。このツールを用いて、顧客の口座情報や履歴、ローンの状況などを一元管理し、顧客対応を効率化しようとしました。

結果
しかし、このツールは外部からの攻撃に十分なセキュリティ対策を施していなかったため、サイバー犯罪者の不正アクセスのターゲットとなりました。結果として、数千人の顧客情報が流出し、銀行は顧客からの信頼を失い、重大なコンプライアンス違反として、大きな罰金と業務停止命令を受けました。

4. IT企業のソフトウェアライセンス違反

事の発端
あるIT企業の開発チームが、新しいソフトウェアの開発にあたり、非公式のライブラリやツールを導入しました。これらのツールは無料で利用できるオープンソースではなく、特定のライセンスが必要でしたが、手軽さからそれを無視して利用してしまいました。

結果
製品がリリースされると、使用していたライブラリのライセンス保持者から訴訟を起こされました。ライセンス違反により、企業は大きな罰金を支払うこととなり、さらに該当のソフトウェアを市場から回収する事態となりました。これにより、企業のブランドイメージや信頼は大きく損なわれました。

5. 広告代理店のクリエイティブ情報の流出

事の発端
ある広告代理店のデザイナーチームが、クライアントの承認を待たずに、非公式のクラウドストレージを使用してクリエイティブ作品を共有していました。このクラウドストレージはセキュリティが甘く、第三者からのアクセスが容易でした。

結果
競合他社のデザイナーによって、このクリエイティブ情報がアクセスされ、そのデザインが先に公開される事態となりました。これにより、クライアントとの契約を失い、大きな経済的損失を被りました。さらに、他のクライアントからも信頼を失い、業績への打撃となりました。

シャドーITを未然に防ぐための戦略

シャドーITにまつわる複数の事例が物語る通り、その潜在的リスクは業務に深刻な影響をもたらします。ここでは、そのリスクを最小限に抑え、シャドーITを未然に防ぐための戦略を、具体的かつ実行可能なステップと共にご紹介します。ぜひ参考にしてみて下さい。

⒈ITポリシーの再評価と教育の徹底

ポリシーの明確化

シャドーITの定義とそれに関連するリスクをクリアにし、社員全員に伝えることが必要です。新しいツールの導入にはどのような手続きを踏むべきか、不許可のツールを使った場合の処罰も明記しましょう。

教育プログラムの実施

ITポリシーだけでなく、その重要性や背後にあるリスクについても理解を深めるための教育プログラムを実施します。事例を挙げながら、シャドーITの危険性をリアルに伝えることで意識を高めましょう。

⒉適切なツール・ソリューションの導入推進

ニーズの把握

社員がシャドーITを利用する背後には、解決されていないニーズがあります。定期的なアンケートやインタビューを通じてこれらのニーズを把握しましょう。

代替ツールの提供

社員のニーズに応える公式のツールやソリューションを提供します。可能ならば、ユーザーフレンドリーで柔軟性のあるものを選定し、利用者がストレスなく業務を行えるようサポートしましょう。

⒊定期的なIT監査の実施

アセットのインベントリ作成

企業内で利用されている全てのITアセット(ソフトウェア、アプリケーション、ハードウェア)のインベントリを作成し、不正なツールが使用されていないか確認しましょう。

監査の実施

ITエキスパートや外部の専門家を交えて、定期的なIT監査を実施します。監査では、不許可のソフトウェアやツールの使用、セキュリティ違反、データ流出のリスクなどをチェックしましょう。

フィードバックの活用

監査結果はフィードバックとして社員に共有し、改善ポイントを明確にしましょう。そして、そのフィードバックをもとにITポリシーやツールの選定を見直すなど、改善アクションを実施します。

これらの戦略は、組織全体で協力し合うことで効果を発揮します。シャドーITのリスクを抑え、安全かつ効率的なIT環境を構築しましょう。

シャドーITを防ぐ適切なおすすめのツール4選

シャドーITを防ぐためには、その管理と監視を強化するITツールが重要になります。以下は、シャドーITを抑制し、情報の安全を守るためのおすすめのツールを4つ紹介します。

1. CASB (キャスビーCloud Access Security Broker)

CASBは、企業のクラウドサービス使用を中央で管理・制御するためのセキュリティツールです。企業が使用するクラウドサービスに対して、中央からセキュリティポリシーを適用できます。不承認のクラウドサービス利用(シャドーIT)を検出し、そのリスクを可視化・最小化するのに役立ちます。更に、データの暗号化やアクセスコントロールなど、多様なセキュリティ機能も提供しています。

特に、社員が個人的にクラウドサービスを利用する「シャドーIT」を抑制する機能があり、不正なデータアクセスや漏洩を防ぎます。

2. DLP (Data Loss Prevention) ソフトウェア

DLPツールは、企業の機密データが外部に漏れないようにするソフトウェアです。データの移動をトラッキングし、機密情報が企業ネットワーク外に送信されるのを防ぎます。組織のネットワークからのデータの流出を監視、制御し、情報がセキュアであることを保証します。具体的には、メールやファイル転送、クラウドストレージへのデータアップロードなど、データの移動を監視して、ポリシー違反がある場合にアラートを発するか、トランザクションをブロックします。

もし社員が許可されていないクラウドストレージやアプリケーションを使用してデータを送信しようとすれば、DLPツールがそれを検出し、ブロックできます。

⒊ Tocaro

「Tocaro」は、セキュリティを最重要視したビジネスチャットツールです。エンドツーエンドの暗号化や2要素認証、アクセスログの確認機能を備えており、組織内コミュニケーションの安全性を確保します。シャドーITの観点からは、社員が無許可のコミュニケーションツールを使用する必要性を低減し、企業の公式ツールとして「Tocaro」を推奨することで、情報漏洩のリスクを抑制します。

https://tocaro.im/

⒋Chatwork 

「Chatwork」は、ビジネスチャット、タスク管理、ファイル共有が一つに統合されたコミュニケーションツールです。メンバー間のコミュニケーションを一元管理でき、チャット履歴やファイル共有も安全な環境内で管理可能です。シャドーIT抑制の観点では、「Chatwork」を正式なコミュニケーションツールとして導入することで、非公式なツールを使用したコミュニケーションを防ぎ、情報管理を集約化します。

https://go.chatwork.com/ja/

上記4つのツールは、それぞれ異なる観点からシャドーITのリスクに取り組みます。あるツールがセキュリティ面で強固でも、利便性が損なわれる場合、社員が非公式ツールを求める可能性があるため、セキュリティと利便性のバランスを考慮してツールを選定し、組織に導入することが重要です。

未来を切りひらくためには安全なIT環境を整えましょう

シャドーITは、表面上では企業の働き方をスムーズにし、業務効率を上げる魅力的なオプションと映りますが、その便利さの裏には企業を揺るがす恐ろしいリスクが潜んでいます。そして、その便利さの陰で進行するデータ漏洩やセキュリティ違反は、組織にとって大きな脅威となり得ます。企業は、この隠れたリスクにどう取り組むかが、今後の企業成長と直結しています。

シャドーITは、セキュリティ侵害、データ漏洩、コンプライアンス違反といった直接的なリスクだけでなく、データの断片化や業務プロセスの非効率化といった、企業活動における様々な障害を生み出す可能性があります。こうしたリスクが積み重なることで、組織の成長やイノベーションを阻害し、最終的には企業の競争力低下に繋がりかねません。

シャドーITの根絶は、単に技術的な対策を講じるだけでなく、組織全体の情報管理とIT使用に関するポリシーの共有、そして組織文化の変革が不可欠です。企業は、安全で効率的なIT環境の構築を進め、企業全体でシャドーITに対する意識改革を実現しましょう。それによって、企業は持続可能な成長を追求し、変化するビジネス環境においても安定したオペレーションとイノベーションを続けることが可能となります。企業の持続的な成長と、テクノロジーを最大限に活かした未来を築くために、完全なIT環境を整えましょう。

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