メールの煩雑さや電話のつながらない課題を解決し、ビジネスチャットを導入して顧客との連携を始めれば、顧客満足度(CS)の向上や営業効率の改善が期待できます。しかし、社外の顧客とチャットでつながることは、情報漏洩やコンプライアンス上のリスクを伴います。
この記事は、顧客や取引先とのビジネスチャット活用を進める企業に向けて、社外連携特有のリスクを回避し、高いセキュリティと効率を両立させるための具体的な5つの注意点と運用ルールを解説します。また、外部連携機能に強みを持つおすすめのビジネスチャットツール5選をご紹介します。この記事が、貴社の安全で質の高い顧客コミュニケーション基盤の構築に役立つことを願っています。
顧客とのビジネスチャット連携で発生する3大課題
社内利用とは異なり、顧客とのチャット連携では、以下の3つの特有な課題に直面します。
1. セキュリティリスクと「シャドーIT」の危険性
社外と連携する際に最も懸念されるのがセキュリティです。セキュリティレベルが担保されていない無料のコンシューマー向けチャットアプリ(例:個人用LINE)を、手軽さから顧客とのやり取りに使ってしまう「シャドーIT」が横行すると、機密情報や顧客情報の漏洩リスクが跳ね上がります。また、正式なビジネスチャットツールであっても、外部連携時のアクセス権限やログ管理が不十分だと、意図せず情報が流出するリスクがあります。
2. コミュニケーションの境界線と「即時対応」のプレッシャー
チャットの特性である「即時性」は、顧客の期待値を高めます。顧客は、チャットで送ったメッセージに対して「すぐに返事が来るだろう」と無意識に期待しますが、企業側には営業時間や対応できる体制の限界があります。この返信速度の期待値のズレを事前に調整しないと、顧客満足度の低下や、社員が業務時間外も対応を迫られる「通知疲れ」を引き起こす原因となります。
3. 煩雑なアカウント・ログ管理と責任の所在
顧客とのやり取りは、営業担当、サポート担当、プロジェクトマネージャーなど、複数の社員が関わることが一般的です。担当者が変わるたびにチャット履歴を引き継いだり、プロジェクト終了後に顧客アカウントのアクセス権を適切に停止したりする管理が煩雑になります。さらに、後日のトラブル対応や監査のために、顧客とのやり取りのログを長期かつ安全に保管し、責任の所在を明確にする仕組みが必要です。
顧客連携で後悔しないための5つの運用ルール(注意点)
これらのリスクを回避し、顧客とのチャット連携を効果的に進めるためには、ツール選定よりも前に、全社で徹底すべき明確なルールを定めることが不可欠です。
ルール1:必ず「外部連携機能」を使用し、個人ツールを厳禁とする
顧客とのやり取りは、必ず企業が管理し、セキュリティ対策が講じられたビジネスチャットの「外部連携機能(ゲストアカウントや専用チャネル)」を通じて行うことを全社員に義務付けます。
- 徹底事項: 個人利用のLINE、SMS、メールアカウントなど、企業の管理下にないツールでの業務連絡を禁止し、違反時の罰則規定を明確にします。
- 目的: 情報漏洩リスクの排除と、やり取りのログを確実に企業資産として残すためです。
ルール2:返信のSLA(期待値)と対応時間帯を明記する
コミュニケーションの境界線を明確にするため、顧客に対し「いつまでに返事が来るか」の具体的な期待値(SLA)を事前に合意します。
- 例: 「お問い合わせは1営業日以内に必ず返信します」「緊急時以外は平日9時~18時の対応となります」
- メリット: 顧客の過度な即時対応の期待を防ぎ、社員が時間外の対応に追われるストレスを軽減します。
ルール3:チャネルを目的別に細分化する
顧客とのチャネルを「プロジェクトの進捗報告用」「緊急連絡用」「ファイル共有用」など、目的別に細分化し、情報が混ざり合って埋もれるのを防ぎます。
- チャネル名: 【PJT_A_進捗報告】、【PJT_A_緊急連絡窓口】のように、一目で目的がわかる名前に統一します。
- 利用推進: 顧客にもこのルールを共有し、適切なチャネルで連絡してもらうよう誘導します。
ルール4:メッセージの冒頭に「要件・担当者・期限」を明確化
メッセージを受け取った顧客や社内担当者が、一瞬で「誰が、何を、いつまでに」すべきかを理解できる構造化されたメッセージ作成を徹底します。
【顧客への改善例】
@顧客担当者様【要確認:本日中】:添付の資料(最終提案書Ver 2.0)をご確認ください。ご質問は本スレッドにご返信をお願いいたします。
このルールにより、問い合わせや依頼の見落としが減り、顧客対応の確実性が向上します。
ルール5:アクセス権限の管理とログの長期保存
顧客とのやり取りの透明性を確保するため、以下の管理機能を徹底的に利用します。
- アクセス権限: プロジェクト終了後や担当者変更時には、必ず顧客アカウントのアクセス権を即座に停止します。
- ログ管理: 顧客とのやり取りの履歴を、監査やトラブル対応に備えて、法的に要求される期間(例:7年以上)安全に保存できる機能を持つツールを選びます。
顧客とのチャット連携の品質と効率を高めるための組織体制とフロー
顧客との連携を単なる「担当者間のやり取り」で終わらせず、組織的な資産として活用し、対応品質を向上させるための体制とフローを構築することが重要です。
1. 専任窓口と内部連携チームの設置
顧客チャットの窓口を一本化し、それを支える内部チームを設置します。
- 専任窓口(一次対応者): 顧客チャネルでの最初の応答と、定型的な質問への回答を担当します。即時対応の期待に応えるための初期対応を行います。
- 内部連携チーム: 営業、サポート、開発など、顧客からの問い合わせ内容に応じて必要な部署のメンバーで構成し、専任窓口からのエスカレーションを受け付ける役割を担います。
2. エスカレーションフローの明確化
顧客からの問い合わせやトラブルをチャット内で放置させないための、明確なエスカレーション(上位への報告・引き継ぎ)ルールを設定します。
| 対応レベル | 発生事象 | エスカレーション先 | 対応期限 |
| レベル1(定型) | FAQで解決可能な一般的な質問、資料請求など | 専任窓口(一次対応者) | 30分以内 |
| レベル2(非定型) | 技術的な問題、仕様に関する確認、納期調整など | 内部連携チームの専門担当者 | 1時間以内 |
| レベル3(緊急/重大) | 重大なシステム障害、クレーム、コンプライアンスに関わる内容 | チームリーダーまたは責任者(マネージャー) | 5分以内にチャットでメンション |
エスカレーションは、必ず社内チャネルでの「メンション」と「タスク化」を通じて行い、口頭やメールを介した引継ぎ漏れを防ぎます。
3. FAQ(よくある質問)とナレッジのチャット内整備
顧客対応のスピードと品質を均一化するため、チャット内に FAQやナレッジベースへのアクセス動線を整備します。
- ナレッジ連携: ツールが持つファイル共有機能や外部連携機能を使い、顧客向け FAQドキュメント、最新の料金表、トラブルシューティングガイドなどを、顧客チャネルからすぐにアクセスできるように配置します。
- 定型文の活用: 顧客への挨拶、対応開始・終了の連絡、謝罪文など、使用頻度の高い定型文をツールに登録し、応答時間の短縮と対応品質の安定化を図ります。
顧客連携に強い!おすすめビジネスチャット5選
ここでは、外部連携機能、セキュリティ、タスク管理の観点から、顧客との利用に強みを持つビジネスチャットツールを厳選してご紹介します。
1. Tocaro:顧客からの依頼を「タスク」化し、抜け漏れを撲滅したい組織に



純国産のTocaroは、チャット・タスク管理・ファイル共有を統合しており、特に顧客からの依頼を社内タスクとして管理する機能に強みがあります。
- 顧客連携のポイント: 顧客からの「見積もり依頼」や「仕様変更」などのメッセージを、ワンクリックで社内のタスクとして切り出し、担当者と期限を割り当てて進捗管理できます。これにより、顧客対応における「依頼の受け漏れ」や「担当者間での引き継ぎ漏れ」を根本的に防ぎます。また、国内サーバーでのデータ管理や柔軟なアクセス権限設定により、顧客連携に求められる高いセキュリティ要件を満たします。
公式サイト:https://www.tocaro.im/
2. Chatwork:取引先との連携の容易さを最優先する組織に



Chatworkは、シンプルなUIと、外部ユーザーを招待しやすい仕組みが特徴の国産ビジネスチャットです。
- 顧客連携のポイント: Chatwork IDを交換するだけで、外部の企業や顧客と手軽に連携チャネルを作成できます。操作が非常にシンプルで、顧客側の学習コストも低いため、導入の障壁が低い点が最大のメリットです。外部連携が多岐にわたる企業にとって、煩雑なアカウント管理の手間を抑えつつ、安全な連携を実現します。
公式サイト:https://go.chatwork.com/ja/
3. LINE WORKS:顧客の操作性を考慮し、定着率を高めたい組織に



LINE WORKSは、コンシューマー向けLINEとほぼ同じ操作性を持ち、顧客側がアプリ操作に慣れている可能性が高いため、抵抗なくスムーズに連携を開始できます。
- 顧客連携のポイント: LINEユーザーと安全に連携できる機能(公式アカウント連携など)があり、顧客が新たなアプリをインストールする手間が少ないため、顧客側の導入ハードルを最も下げられるツールです。既読機能でメッセージ確認の有無が明確に伝わるため、顧客対応の透明性向上にも役立ちます。
公式サイト:https://line.worksmobile.com/jp/
4. Microsoft Teams:大規模な取引先との連携とセキュリティを重視する組織に



Microsoft Teamsは、Microsoft 365環境との統合性が高く、特に大規模なエンタープライズ顧客やグローバル企業との連携に強みがあります。
- 顧客連携のポイント: Azure AD(Active Directory)を通じてゲストアクセスを厳格に管理でき、エンタープライズレベルの高いセキュリティ要件を満たします。外部とのWeb会議機能も強力であり、チャットでのやり取りからシームレスにオンラインミーティングに移行できるため、複雑な商談やサポート対応に適しています。
公式サイト:https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/
5. Slack:ワークフロー自動化で顧客対応の工数を削減したい組織に



Slackは、豊富な外部連携と高度なカスタマイズ性が特徴で、特に「Slackコネクト」機能によるセキュアな外部連携が優れています。
- 顧客連携のポイント: ワークフロービルダーを使って、定型的な顧客からの問い合わせ(例:資料請求、障害報告)を自動で社内のタスク管理システムに連携させたり、担当者に通知したりする仕組みを構築できます。これにより、顧客対応の初期対応を自動化し、社内担当者の工数を大幅に削減できます。
公式サイト:https://slack.com/intl/ja-jp/
ビジネスチャットの顧客連携は「ツール」と「ルール」の両輪で
ビジネスチャットを顧客と活用するには、メールや電話では実現できないスピードと親密性を提供しますが、同時にセキュリティと管理の難しさも伴います。
後悔しない外部連携を実現するためには、以下の2つが不可欠です。
- 「ルール」の確立: 顧客とのチャットでは「即時性の境界線」「要件・期限の明記」「個人ツールの利用禁止」といった社内ルールを徹底し、両者の期待値のズレをなくすこと。
- 「ツール」の選定: 顧客からの依頼を社内タスクとして確実に管理できる機能(Tocaroなど)や、高いセキュリティと連携管理機能を持つツールを選ぶこと。
この記事でご紹介した5つのルールと 5つのおすすめツールを参考に、貴社の顧客対応を次のレベルへと引き上げてく ださい。























