トヨタでは過剰在庫を減らし、在庫を管理するために、目で見て分かるようにする仕組み「カンバン」や、生産ラインに異常があった場合に工場内で点灯して光で知らせる「アンドン」、業務の手順を紙に落とし込んで、どのように生産されているか、誰が見てもわかるトヨタ方式の「プロセスマップ」などを開発しました。
これらの取り組みは「カイゼン」と呼ばれる、トヨタ独自の取り組みで、世界的に有名になった工場における生産活動の運用方式である「トヨタ式生産方式」を支えています。常に業務改善に意識を向け、効率化を図り、生産性を高める。それを可能にしているのが「見える化」という取り組みなのです。
見える化の見えにくい側面
トヨタの自動車製造工場で生み出されたことで有名になった「見える化」ですが、今日では様々な分野で取り入れられ、業務改善の代名詞のような用語になっています。何でも見えなかったものを見えるようにすることによって、潜在化していた問題を顕在化し、見えるようにしようというものです。
世界のトヨタが取り組んでいるこの「見える化」は現在では業務改善の至上命令のように扱われていますが、これだけもてはやされる見える化にデメリットはあるでしょうか。今回は「見える化」の見えない側面を探っていきます。
見える化のメリットは数え切れないほど語られる
今やデータをグラフに表すことまで「見える化」という単語で表され、そのメリットについて語られるほどの有用性や汎用性が認められています。当たり前過ぎて問題視すらされていなかったものを可視化して問題提起させる「見える化」は、何かを改善したい人にとっては、この上ない手法だと言えます。
ここで、見える化で語られるメリットをポイントにまとめて確認しておきましょう。
1.業務プロセスがわかるようになる
業務や作業の手順が誰が見てもわかるようになります。
2.暗黙知を共有できる
知識や経験といった目では見えないものを共有できるようになります。
3.自発的な業務改善が行われやすくなる
見える化によって問題点が浮き彫りになることによって、改善の意識が生まれやすくなります。
4.ルールが合理化され無駄が削減される
それまで不合理だったルールも合理的に改善され、無駄を省いた業務プロセスが作成できます。
5.属人化されている業務が可視化され生産効率向上を図れる
誰がどんな仕事をしているか洗い出すことによって偏った業務の再分配が可能となります。
見える化は業務改革の無敵の相棒なのか。デメリットを探る!
見える化の本質は現場の人が見えなかったものを見えるようにすることで、改善の意識を持たせるところにあるといえます。それまで意識になかった事柄に目を向けさせ、知恵を出し合える環境を整備したところがトヨタの見える化の功績なのです。
しかし、杓子定規に見える化を導入することによって生じる弊害も実はあるのです。あまり語られることのない「見える化」のデメリットについて見ていきましょう。
1.現場が硬直化する
組織の経営陣が、見える化導入の目的ををきちんとメンバーに伝えずに見える化の体制だけを取り入れようとすると、監視されているという意識から現場の柔軟性が失われ、自由な発想や新しい知恵も生まれにくくなることがあるといわれています。
2.問題の本質がブレる
見える化で業務改善を行おうと思い職場のあれもこれも見える化してしまうと、結局何を根本的に改善したかったのかがぼやけてしまうことがあります。しっかりと目標を持って、何をどのように改善したいのかを明確にして、見える化を行なう必要があります。
3.探求しなくなる
一度見える化されたものを見せられると、そこに満足してしまいそれ以上の探求をしなくなることがあります。一度見える化したものでも、定期的に見直しを促す必要があります。見える化は常に改善していくという組織の強い気持ちが大事なのです。
見える化のメリット、デメリット、真の目的。
以上見てきたようにトヨタが情熱を注ぎ、生み出した見える化ですが、業務改善に役立つあまり、それに頼り切りになってしまうと、弊害が生まれてしまうこともあるのです。
本来「カイゼン」という業務改善のプログラムの一環として育てられてきた見える化です。その根底には経営者、従業員一体となった業務改善への熱意がなければなりません。
もし形式上だけの見える化を経営者の判断で、トップダウンで現場に導入しても、現場の従業員は見える化の縁だけをなぞり、改善に取り組むこともなく、ただ形骸化してしまった見える化だけが残るでしょう。それは見える化の真の目的ではありません。そうならないためにも「社内の縦の連携」が重要なのです。
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