「クラウド型のビジネスチャットは便利だが、機密情報の漏洩リスクが不安だ」「既存の認証システムと完全に連携させたいが、クラウド提供のツールでは柔軟性に欠ける」
このように、セキュリティやガバナンス、そして既存システムとの連携において、極めて厳格な要件を持つ組織にとって、「オンプレミス型」のビジネスチャットツールは、最適な選択肢となります。金融機関、官公庁、大規模製造業など、データの主権と完全な管理を重視する企業にとって、自社環境内にシステムを構築するオンプレミス型は、最後の砦とも言える安心感を提供します。
しかし、オンプレミス型はクラウド型に比べて初期費用や運用負荷が大きいのも事実です。この記事では、オンプレミス型のビジネスチャット導入を検討されている皆様に向けて、そのメリット・デメリットを徹底比較し、後悔しないための選定基準と、おすすめのツール5選を具体的に解説します。
オンプレミス型ビジネスチャットが選ばれる3つの理由
クラウド提供のツール(SaaS)が主流となる中で、あえてオンプレミス型を選ぶ組織には、クラウドでは満たせない明確な理由があります。
⒈最上位レベルのセキュリティとデータ主権の確保
オンプレミス型は、自社のファイアウォール内部にシステムを構築するため、外部からのアクセスや不正侵入のリスクを自社で完全にコントロールできます。
- データ管理の独立性: サーバーの設置場所やデータの保管方法を自社で決定できるため、クラウドベンダーのポリシー変更や、海外のデータ保護法令に影響を受けることがありません。金融情報や個人情報を扱う組織にとって、この**「データ主権」**の確保は最優先事項です。
- 既存セキュリティとの完全統合: 既に導入している認証基盤(AD/LDAPなど)や、侵入検知システム(IDS/IPS)とシームレスに連携できるため、セキュリティ対策を一元化し、ガバナンスを徹底できます。
⒉既存システムとの高度な連携と柔軟なカスタマイズ
クラウド提供のツールの多くは標準的なAPI連携に留まりますが、オンプレミス型は基幹業務システムや独自のレガシーシステムとの深い連携を実現できます。
- カスタマイズの自由度: 自社のワークフローに合わせて、インターフェースや機能の一部を独自に開発・改修することが可能です。複雑な承認プロセスや、特殊な通知要件など、クラウド提供のツールでは対応できないニッチな業務要件に対応できます。
- 自社認証基盤との連携: 組織固有の認証システムやシングルサインオン(SSO)を完全に組み込めるため、職員や従業員の利便性を損なうことなく、セキュリティを強化できます。
⒊長期的な費用対効果と安定的な運用
初期導入コストはかかりますが、長期的に見ると、ライセンス費用が安定し、トータルコストが抑えられる可能性があります。
- ユーザー数の変動リスク低減: ユーザー数が増えるたびに月額料金が変動するクラウド型と異なり、一度導入すればユーザー数に依存しないライセンス体系を選択できる場合があります。
- ネットワークの安定性: 社内ネットワーク内での通信となるため、外部のインターネット回線の状況に左右されず、高速で安定した通信環境を確保できます。
オンプレミス型、クラウド型、そして両者の利点を組み合わせたハイブリッド型は、それぞれメリットが異なります。以下にその違いを視覚的に示します。
オンプレミス型導入で考慮すべき3大課題(デメリットと対策)
オンプレミス型が持つメリットを享受するためには、以下の 3つの課題(デメリット)と、その対策を理解しておく必要があります。
⒈初期コストの高さと運用負荷の増大
- デメリット: サーバー、OS、ミドルウェアの購入、システム構築、そしてライセンス取得に多額の初期費用が必要です。また、導入後の運用(保守、障害対応、セキュリティパッチ適用)はすべて自社の情報システム部門が担うことになります。
- 対策: 導入前に TCO(総所有コスト:初期費用+5〜7年間の運用費用)を算出し、クラウド型との比較を徹底的に行うこと。ベンダーからの手厚いサポートを受けられる保守体制を契約に盛り込むことが不可欠です。
⒉バージョンアップと機能追加の遅延リスク
- デメリット: クラウド型が自動で最新版に更新されるのに対し、オンプレミス型は機能追加やセキュリティパッチの適用を自社で行う必要があり、手間と時間がかかります。この結果、セキュリティリスクへの対応が遅れたり、最新の便利な機能が利用できなかったりするリスクがあります。
- 対策: バージョンアップの頻度や、パッチの適用手順が簡素化されているツールを選ぶこと。また、セキュリティ対応が必須なパッチについては、ベンダー側が迅速かつ簡潔な適用手順を提供しているかを確認します。
⒊社外・モバイルからのアクセスの複雑化
- デメリット: 社内ネットワークに閉じた環境であるため、リモートワークや外出先からセキュアにアクセスするには、VPN(仮想プライベートネットワーク)やVDI(仮想デスクトップインフラ)といった追加の仕組みが必要です。
- 対策: モバイルアクセスを必須とする場合は、チャットツール自体がセキュアなモバイルクライアントを提供しているか、または既存のVPN環境との連携実績が豊富かを確認します。アクセス経路のセキュリティ要件を明確にし、情報システム部門の管理下に置くことが重要です。
オンプレミス型導入を検討すべき組織のチェックリスト
以下の項目に一つでも当てはまる組織は、セキュリティとカスタマイズ性を最優先するオンプレミス型を強く検討すべきです。
- ✅ 超厳格なセキュリティ要件: 金融機関や医療機関、公共性の高いデータを扱う組織
- ✅ 既存の認証基盤との完全連携: 独自の Active Directory や LDAP 認証を必須とする組織
- ✅ ネットワーク分離環境: インターネット系とLGWAN/業務系を分離している組織
- ✅ カスタマイズ要件: 独自の基幹システムと連携させるための機能改修が必須な組織
- ✅ データ主権の確保: サーバー設置場所を含め、すべてのデータを自社で管理したい組織
オンプレミス型導入に強い!おすすめビジネスチャット5選
ここでは、オンプレミスでの導入実績や、大規模組織向けのセキュリティ・管理機能に強みを持つビジネスチャットツールを厳選してご紹介します。
1. Tocaro:高セキュリティと柔軟なカスタマイズを実現する国産ソリューション



純国産のTocaroは、チャット・タスク管理・ファイル共有のオールインワン機能に加え、セキュリティ要件が厳しい組織向けに、オンプレミスまたはプライベートクラウド環境での提供を積極的に行っています。
- オンプレミス導入のポイント: 大規模組織や金融機関におけるオンプレミス導入実績が豊富であり、自社の既存認証システム(SSO)との連携や、セキュリティポリシーに合わせた機能のカスタマイズが柔軟に行えます。国内ベンダーによる手厚いサポートを受けながら、自社のセキュリティ環境内で安心して運用を開始したい組織に最適です。
公式サイト:https://www.tocaro.im/
2. Mattermost:データ主権と柔軟なカスタマイズを求める組織に



Mattermostは、オープンソースをベースにしたビジネスチャットであり、自社サーバーへの完全なオンプレミス導入が可能です。
- オンプレミス導入のポイント: ソースコードを含むすべてのデータを自社内で完全に管理できるため、データ主権の確保を最優先する組織に最適です。既存の認証基盤との連携実績も豊富で、柔軟なカスタマイズにも対応しており、高度な技術要件を持つ企業や開発部門のニーズを満たします。
公式サイト:https://mattermost.com/
3. Microsoft Teams:既存のOfficeインフラとの統合を最優先する組織に



Teamsは、Office 365のサービスとしてクラウド提供が基本ですが、SharePoint Server や Exchange Server との連携を通じて、一部のデータをオンプレミス環境に保持するなど、ハイブリッドな構成を取ることが可能です。また、大規模な認証管理(Azure AD)機能が充実しています。
- オンプレミス導入のポイント: 既に大規模な Microsoft 環境を運用している組織であれば、既存の認証基盤や管理体制を最大限に活用でき、ハイブリッド構成による柔軟なデータ管理を実現できます。クラウドとオンプレミスの連携をスムーズに行いたい場合に適しています。
公式サイト:https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/
4. Garoon:統合的なグループウェア環境をオンプレミスで実現したい組織に



サイボウズのGaroonは、ポータル、スケジュール、掲示板、ファイル管理といったグループウェア機能に加え、高機能なチャット機能(メッセージ)を統合して提供しています。全機能をオンプレミス環境に導入できる点が大きな特徴です。
- オンプレミス導入のポイント: サーバー設置から運用・保守までを自社で行えるため、チャットだけでなく、全社的な情報共有と業務システムを統合した環境を自社内で厳格に管理したい大規模組織に最適です。特に国産で日本語サポート体制が充実している点も大きな強みです。
公式サイト:https://garoon.jp/
5. direct:現場業務特化型チャットのオンプレミス導入



directは、建設業やサービス業など現場を持つ業界に特化した機能を持つ国産チャットツールです。現場業務に不可欠な写真への書き込み機能や報告テンプレートを提供しながら、セキュリティを重視する企業向けにオンプレミスでの提供も行っています。
- オンプレミス導入のポイント: 現場特有の機能(写真・図面共有)を自社ネットワーク内のセキュアな環境で運用したい場合に最適です。特に、機密性の高い現場情報や図面データを外部に出すことを避けたい建設関連企業などに選ばれています。
公式サイト:https://direct4b.com/ja/
5. オンプレミス導入をスムーズに進めるための3ステップ
オンプレミス型は導入の難易度が高いため、以下の 3ステップで計画的に進めることが、運用開始後の円滑な定着につながります。
ステップ1:要件定義の徹底とクラウドとの「ハイブリッド」検討
- セキュリティと連携の「絶対条件」を定義: どのようなデータは絶対に社外に出せないのか、どの既存システムとの連携が必須なのかを明確にし、要件を定義します。
- ハイブリッドの可能性を探る: 全ての機能をオンプレミスにするのではなく、社内データはオンプレミス、外部連携やモバイルアクセスはクラウド経由のセキュアな経路を利用するなど、ハイブリッド構成の柔軟な選択肢も検討することで、コストと運用のバランスを取ります。
ステップ2:パイロット(試験)環境での徹底検証
- 技術検証の実施: 選定したツールの環境構築後、少人数のパイロットチームで「既存認証基盤との連携」「モバイルからのVPNアクセス」「カスタマイズ機能の動作」といった、オンプレミス特有の要件を徹底的に検証します。
- 現場の評価: 情報システム部門だけでなく、実際に利用するユーザー部門に使いやすさ(UI/UX)を評価してもらい、定着への課題を抽出します。
ステップ3:運用・保守体制の確立とライセンス管理
- SLAの策定: 障害発生時の対応フローや復旧目標時間(RTO/RPO)など、運用に関するSLA(サービスレベルアグリーメント)を策定します。
- ベンダーとの連携: セキュリティパッチの適用やバージョンアップ時の手順について、ベンダーと密接に連携する体制を構築し、自社運用負荷を軽減する仕組みを整えます。
オンプレミス型の高セキュリティと柔軟性を重視する組織の最適解
ビジネスチャットツールのオンプレミスの選択は、貴社の情報管理に対する強いこだわりと責任感の表れです。
オンプレミス型は、最上位のセキュリティとカスタマイズの自由を提供しますが、運用負荷という代償も伴います。導入を検討する際は、初期費用だけでなく、長期的な運用にかかる費用(TCO)の総額を比較することが不可欠です。
この記事でご紹介した 3つの選定理由と 5つのおすすめツール(特に国産で高セキュリティなTocaroなど)を参考に、貴社の厳しい要件を満たし、情報資産を守りながら生産性向上に貢献する、最適なビジネスチャット環境を構築されることを願っています。























